外科医の日常ブログ:臨床留学:移植外科:USMLE:まとめ

日本生まれ日本育ちの外科医です。 移植外科医として2018年からアメリカ中西部に臨床留学中。 初期研修、後期研修、大学院は日本で経験しています。 USMLE、留学日記を中心に、関心のある医療トピック(移植外科、肥満外科、予防医学) 趣味の筋トレ、ダイエット、書評、アプリ紹介など 中心に情報発信していくブログです。

手術時間を短縮する工夫

こちらで研修を始めて驚いたのが手術時間の短さです。

 

脳死肝移植は肝臓摘出までに約1時間、ドナー肝臓の脈管の吻合に約2時間、計3ー4時間で手術が終了してしまいます。この5ヶ月で約60症例ほど、脳死肝移植を経験しましたが、最短の手術時間は2時間半、最長でも5時間半でした。最短症例は劇症肝炎の急性期で元々の肝硬変がなく、肝臓摘出が容易だったことが手術時間の大幅な短縮につながったのかなと思います。最長症例の際は肝硬変による門脈亢進症が進んでおり、側副血行路が発達していたためにどんな操作をするにしても出血が伴い、また再移植症例のため腹腔内の癒着も激しく、通常よりも時間がかかってしまいました。ただ、肝硬変の進んだ再移植症例でも5時間強で手術が終了してしまうというのは、当初非常に驚きました。

 

日本で研修していたころは、標準的な肝切除でも、例えば右肝切除で3–4時間、中央二区域切除で5–6時間、膵頭十二指腸切除D2で8–12時間、なんて手術時間を経験していたので。また、自分が入局する前に行われていた肝移植の話を聞いても、朝入室して、次の日の朝にICUに帰室していた、とか、一件の手術でその県の輸血センターにある輸血を全て使い切ってヘリで輸血を空輸してもらったことがあった、とか、俄かには信じがたいお話を聞いていました。

 

肝移植だけでなく、他の肝胆膵の手術をみても、PD、DPが3時間台で終わって1日2件直列で手術が行われていたり、朝イチで始まった肝切除が昼前には終わり、午後から執刀医が普通に外来診療をしていたり、日々手術時間の短さを感じながら研修しています。

 

気になってボスに何故こんなに手術時間が短いのか聞いてみたところ、

笑いながら昔は出血がもっと多かったし輸血もたくさんしていたし、それこそ手術台の上で患者さんがなくなることもあったけど、その分たくさん試行錯誤を繰り返してkaizenしていったら今みたいに短くなったんだよね。Kaizenだよ。君たちが一番得意じゃないのかね?笑 と言われてしまいました。

 

確かに手術に入ってみると、やることが細かい細かい。一つ一つ吟味された道具があって、一つ一つ吟味された工程があって、それぞれがたくさんの失敗から学ばれて今の形になっていることを感じました。これが外科診療の難しいところで、あるアウトカムを達成するためのプロセスが、同じ手術にしても工程数が多すぎるんですよね。考慮すべき変数が多すぎて、RCTを組むことがすごく難しい。手術のクオリティコントロールをすることがむずかしい。だから、RCTよりも実際に現場で学んだ耳学問に傾きがちになってしいまいます。

 

で、やはり手術の習熟も、一般作業の習熟も同じで、作業に習熟するために一番大事なのはやはり数をこなすこと、試行回数(nの数)を増やすことなんですよね。同じ工程を何回も繰り返すことでその工程に習熟し、作業時間を短くすることができる。結局、これしかないと思うんですよね。

 

一年で10件しか肝移植がないところと、一年で160件肝移植を行なっているところで、比べたら、経験値が貯まる速さも、工程を改善する過程の速さも、全然違うと。一症例一症例“丁寧に”取り組む、とか、術前のイメージトレーニングが、とか、そういう精神論じゃなくて、結局安全にたくさんの症例を集積するためのシステム作り、これが一番大事なんじゃないかなと、そんなことを感じたフェロー1年目の12月でした。

 

徒然と書いていたら手術時間を短縮する工夫からはずれて、日米の移植外科のシステムの違いに話がいってしまったので、当プログラムの中で手術時間短縮に寄与していると思われる点はまた別の機会にまとめてみるとします。