外科医の日常ブログ:臨床留学:移植外科:USMLE:まとめ

日本生まれ日本育ちの外科医です。 移植外科医として2018年からアメリカ中西部に臨床留学中。 初期研修、後期研修、大学院は日本で経験しています。 USMLE、留学日記を中心に、関心のある医療トピック(移植外科、肥満外科、予防医学) 趣味の筋トレ、ダイエット、書評、アプリ紹介など 中心に情報発信していくブログです。

肝移植 手術時間を短縮する工夫 その2

前回、症例数を集積し経験値を上げることで手術時間が短縮していると書いたのですが、もっと具体的にどんな点が手術時間短縮に寄与しているか考えてみました。

 

⓵チームの固定化

肝移植に参加するチームメンバーを原則固定し、メンバー間でノウハウの共有を進めていきます。具体的には、肝移植に参加する外科医は基本的にスタッフ外科医の4人とフェローの私の5人、その中でその週の当番の指導医2名とフェローの私の3名で手術にあたります。役割分担も明確になっており、私ともう一人の指導医がレシピエントの肝臓摘出を行っている間に、もう一人の指導医がバックベンチでドナー肝臓の処理を行っています。肝臓摘出が済んだタイミングでそれまでの術者が第二助手として術野を展開、第一助手のフェローが吻合の助手を行い、ベンチを担当していたスタッフが脈管吻合を行います。静脈、門脈、動脈を吻合したところで、フェローもしくはもう一人のスタッフに術者を交代し、吻合を行ったスタッフは帰宅(!)、残った二人で胆管吻合、止血、閉創を行います。

フェローは2年ごとに交代しますが、それ以外のスタッフは固定メンバーであり、皆このプログラムでフェローを行った卒業生なので、基本的に同じやり方で手術を進めます。

メンバーの固定化は外科医だけでなく、器械出し&外回りの看護師も同じで、当地では移植外科専属の手術室看護師チームが存在しています。彼らには各移植手術の術式が細部にわたってマニュアル化されて教育されており、正直器械出し看護師の方がフェローよりも手術の手順に精通しているため、時々間違った器械をフェローが要求すると、今はこれじゃなくてそれだから!と正しい器械を渡してくれたりします(お恥ずかしい限りです…)。当然外科医との呼吸も抜群で、場面に応じて必要な器具をリズムよく出してくれるため、移植手術において彼らの存在は必須となっています。

 

②手順の細分化、均質化

脳死肝移植、多臓器移植、小腸移植、腎移植、膵臓移植、この5つのバリエーションがある中で、当科ではどの手術もほぼ一定の器械、手順で行われています。もちろん、患者さんによって門脈血栓症がひどくジャンプグラフトが必要になる場合など、ある程度の変化はありますが、それもほとんど対応がマニュアル化されています。そのため、手術が始まってから術式にスタッフ同士で議論になることはほとんどなく、最初から最後までノンストップで淡々と手術が進んでいきます。フェローに手術を教える際も、最初からフェローに第一助手で手術に参加させながら、1ステップ毎に手順を教えていく形をとります。フェローがある程度の症例を経験すると、易しいステップから徐々にフェローの執刀パートを増やしていくという形をとっています。具体的には、最初の一か月は開腹~肝臓の授動のみ、次の一か月で胆管吻合、次の一か月で肝門部処理、次の一か月でPiggy-back、次の一か月で静脈と門脈の吻合、次の一か月で動脈吻合、といった具合にstep by stepで術者パートの手順を教育していきます。自分の次のステップが明確になっているため、フェローも助手の際に術者の動きをよくみるようになり、自然に教育効果が高まっていきます。これは外科医教育の上でとても有用な方法と感じました。

日本時代、肝移植は40歳まで助手、ほぼ見学、30歳のお前が行ったところで術者になれるのは20年後、アメリカでも見学からのスタートだよ、とおっしゃって頂いた先生方にぜひ当地の外科医教育を学んでいただきたいです。第2助手、第3助手なんて研修にカウントされていないということを。

 

次回は脳死肝移植の術式で、当地で採用されている特徴的な手技についてまとめてみたいと思います。