移植外科医の米国臨床留学日記

2018年から米国中西部に臨床留学中。留学日記を中心に、関心のある医療トピック(移植外科、癌、肥満外科、予防医学) 趣味の筋トレ、ダイエット、書評、 中心に情報発信していくブログです。

脳死臓器摘出のピットフォール Procurement Pitfall

脳死臓器摘出のピットフォール


まずドナー全身状態の把握。UNOSのwebsiteを通じて24時間365日、アメリカ全土で随時発生しているドナー患者の病歴、検査データ、画像検査データにアクセスすることが可能。〔このウェブサイトの利用には登録が必要〕


摘出チーム数

胸部チームがいる場合、胸部臓器のレシピエントの状況次第でクロスクランプのタイミングを調節する必要がある。例えば、すでに初回の移植手術の既往がある場合、癒着剥離に時間がかかるため、胸骨正中切開、腹部正中切開して後に、数時間の待ち時間が生じる可能性もある。この間に出血やなどでドナーの血行動態が不安定になった場合、ノルアドレナリンなどのカテコラミン類が開始され、腹部臓器に還流障害を生じることがある。また、血圧を

保つための輸液、輸血が過剰になり臓器に浮腫をきたす可能性もある。特に膵臓に関しては浮腫が起こりやすく、また膵臓の浮腫は術後膵炎の危険因子になるため、輸液量には常に注意する必要がある。

 


開腹・開胸

開腹、開胸には複数のお作法があるようだ。

開腹の場合、上下腹部正中切開の後、開創器を用いて展開する施設と、腹部十字切開の後、タオルクランプで腹壁を展開する施設がある。私の研修施設は後者だった。特に小腸、多臓器移植の臓器摘出の場合、腸管損傷は絶対に避けなければいけないため、開腹操作も慎重に行う。

 


スタッフBは開腹と開胸を同時に行う。スタッフPは開腹後、Aoをクランプした後、開胸する。開胸も胸部正中切開後、胸骨正中切痕、胸骨靭帯に沿って指で組織を剥離し、胸骨の背面を十分に剥離する。片腕がすっぽり胸腔内に収まってしまう程度によく胸骨背面を上縁までよく剥離する。スターナルソーで胸骨を切開した後、ブルチンはタオルを挟んで開胸器で十分に開胸する。心膜をメッツェンで切開した後、左横隔膜の付着部に沿って心膜切開を広げておく。

 


腹腔操作に戻る。

カテルブラーシュ操作。上行結腸、回腸、十二指腸を後腹膜から授動する。尿管を損傷しないよう注意。上行結腸方向の授動と、回腸の授動とで電気メスで切り上げる方向が違うことに注意。回腸の授動は左上にむかって切り上げる方向で組織を切開する。上行結腸、回腸、十二指腸を後腹膜から授動すると、下大静脈、腹部大動脈、左腎静脈、腹部大動脈から起始するSMAを確認できる。(正確にはSMAは分厚い神経節に囲まれているので、血管の拍動を神経節越しに感じることで確認する)

 


※膵臓・小腸の臓器採取がある場合、この時点で神経節を慎重に剥離切開し、SMAを同定、ベッセルテープで確保しておく。SMAに解離を起こすとグラフトロスにつながるため、SMAの剥離は特に慎重に行う。

 


スタッフPは大動脈の確保から入る。

スタッフBはまず肝臓の剥離から入る。

 


肝臓の剥離

テレスを結紮切離後、肝鎌状間膜を切開して肝静脈根部を剥離する。この時左手でしっかり肝臓を尾側へ押し下げ、テンションをかけると漿膜切離後に白いあわあわの組織が出現するのでこれを静脈が露出するまで一気に切離する。電気メスをヘラとして使ってどこからが静脈なのか一点で露出すると、同じ高さまでの組織の切離は安全に行える。

 


肝静脈根部を露出したら今度は左肝を授動する。左肝を右手で押し下げ、横隔膜と左肝の間の左冠状間膜を切離、左肝の左縁は脾臓と近接しており、横隔膜と接着しているため特に慎重に、場合によっては助手に鑷子で横隔膜を挙上してもらう。

 


左肝を授動、脱転したら小網を切離する。助手に鑷子を持たせて小網を挙上してもらい、小さく開窓する。左副肝動脈が無いことを確認したら、小網を左肝静脈根部に向けて切開する。左副肝動脈がある場合はこれを温存した上で小網を切開する。

 


右肝を授動する。右冠状間膜を切開し、横隔膜から右肝を剥離する。右肝下面と腹膜との生理的癒着を切離する。この時、下大静脈や右副腎、十二指腸を損傷しないよう注意する。

 


肝臓の授動を終えたら、総胆管を十二指腸よりで剥離、2ー0絹糸でエンサークルしておく。

 


※2 膵臓の剥離

大網を切開して網嚢を開放し、膵前面を露出し膵臓の評価を行う。この時点で膵実質

脂肪に置換されていないか、実質の高度な浮腫がないか、膵炎がないか、周辺臓器との癒着は、腫瘤性病変がないかなど、改めて評価する。

大網の切開を膵頭部方向へ進める。胃結腸間膜が生理的に癒合する部分では多くの米国人外科医は結腸間膜に穴を開けつつ剥離を進めるが、小腸の摘出の際はこのレベルの横行結腸間膜を温存しなければいけないので、癒合部を正確に剥離するよう心掛ける。(胃癌の手術に準じて行えば大丈夫)胃結腸間膜の癒合を解いて膵頭部、十二指腸前面を露出する。

Surgical trunkに流入する結腸からの血管は結紮切離する。

大網の切開を脾門部まですすめる。短胃静脈の処理は膵側(脾側)は結紮、胃側はエンシールやハーモニックなどのデバイスで処理してもよい。脾門部から脾臓背側へ回り、脾臓を後腹膜から授動・脱転する。脾、結腸間膜を結腸寄りで処理、膵下縁を露出する。下腸間膜静脈IMVはカニュレーションする施設もあるが、当施設では結紮切離していた。脾臓ごと膵臓を後腹膜から剥離する。なるべき後腹膜よりで、術者はケリーもしくはライトアングルを用いて剥離層を出し、助手に電気メスで切開させる。術者は脾臓を把持して決して膵臓は直接把持しないように、また膵臓に無理なテンションがかからないよう慎重に剥離を進める。

 


肝門部の剥離

※2 膵臓の場合:

膵臓ありの場合、CBDを膵上縁で結紮切離した後、十二指腸への小血管を丁寧に結紮切離しながらGDAを露出する。GDAも膵上縁で結紮切離する。GDAを処理後、膵上縁を膵臓に切り込まないよう丁寧に膜だけ剥離する。この時点で左胃静脈を同定した場合は結紮切離しておく。総肝動脈の走行に沿って腹膜を切開して脾動脈を同定する。脾動脈はこの時点ではエンサークルに留めておく。膵臓の剥離、肝門部の剥離を終えたら、クロスクランプの準備は完了。

 


※3 肝腎のみの場合:

総胆管をエンサークルしておく。Replaced Rightの有無、固有肝動脈の解剖の確認を行う。総肝動脈に沿った腹膜切開はやってもやらなくてもよい。

 


※胃の処理

胃は幽門側よりも十二指腸寄りでLinea STEAPLERにて切離する。経鼻胃管が引き抜かれていることを確認してから切離する。

 


※小腸の切離

小腸はTreitz靭帯から10ー20cm離れた所で切離する。腸管寄りで腸間膜に穴をあけ、Steaplerで切離する。還流後に十二指腸下縁からこの小腸切離部までの小腸間膜はGDAで切離する。

 


クロスクランプの準備

胸部Aoクランプの場合:特になし

腹部Aoクランプの場合:

Supraceliac Aoを露出しておく。小網切開部から横隔膜脚前面の腹膜を切開し、横隔膜脚を切開する。術者はライトアングルで横方向に筋肉を拾い、助手にゆっくりと電気メスで切離させる。大動脈前面は繊維性の薄い結合織が存在するので、これはケリークランプで把持して小さい穴を開ける要領で開窓する。小さい穴を開けたのち、Supraceliac Aoを露出しクロスクランプに備える。

 


カニュレーション、クロスクランプ

エンサークルしておいた腹部大動脈へカニュレーションする。

カニュレーション前にヘパリン300単位/kg投与し3分待つ。当施設ではほぼ前例3万単位投与していた。総腸骨動脈分枝部レベルで腹部Aoを結紮。術者左手で頭側のAoをクランプし、助手にはその頭側で結紮の準備をさせる。Ao前壁をメッツェンで切開し、カニュレーション。カニューラ側面の突起部よりも末梢でAo血管壁と結紮固定する。しっかり結紮しても腰動脈からのバックフローがあったり、図らずも結紮が緩かったりする場合があるが、あせらずアリス鉗子もしくはバブコック鉗子でAoとカニューラを固定することでほとんどの出血はコントロールできる。なんなら結紮がなくてもDCDの場合はバブコックでAoごとカニューラを把持することで固定と止血が可能である。

 


カニュレーション後、クロスクランプに移る。

胸部クランプの場合、麻酔科医に左肺を下げてもらい、左肺を胸腔外に出したのち、直視下に大動脈を確認してクランプする。クランプ後、すぐに肝上部下大静脈をなるべき心臓寄りで切開し、胸腔内ベントする。ベント後、カニューラから還流液の還流を開始。胸部臓器、腹部臓器ともにクラッシュアイスによる冷却を開始する。腹部臓器の還流には最低3Lの還流液を使用。患者の体格、還流具合によって500ml、1L還流を追加することもある。当施設ではHTKという還流液を使用している。他施設ではUW液の割合が多いようだ。

 


還流中に結腸間膜から胸部チーム要のリンパ節を採取しておくと、胸部チームが臓器摘出後、すぐに病院を出発できる。

 


還流後

※1 小腸・多臓器の場合

※2 膵臓の場合

※3 肝腎のみの場合

 


※3

肝門部操作。肝十二指腸靭帯を左手で確保しつつ、十二指腸上縁で組織を切離、GDAを同定しこれを切離。膵臓を使用しない場合は、膵頭部と門脈の間を指で剥離し、膵頭部を切開して門脈を露出、上腸間膜静脈、脾静脈合流部のそれぞれ末梢側で切離。門脈を左手母指、示指で確保し、その他の組織を切離。この時、背側はIVC、腎静脈であることを意識し、安易に深く切り込まないこと。あくまでも肝十二指腸靭帯の遊離に留める。また右肝動脈がSMAより起始する場合もあるため、変位を常に頭に入れつつ、血管らしき構造物は安易に切らないこと。肝十二指腸靭帯を遊離したら、固有肝動脈に沿って切開を進め、脾動脈を同定したのち切離。左副肝動脈を認める場合は胃小彎に沿って小網の組織を切離し、これを肝臓側に含める。脾動脈切離部より左横隔膜脚、腹腔神経節左側を切離し、腹部Aoとそこから起始するSMA、Celiac根部を露出する。左腎動脈を損傷しないように、Celiacの尾側からAoを切開し、Celiac周囲に大動脈壁をパッチとして残すようにしてCeliac根部を大動脈から切離する。腹腔神経節右側、右横隔膜脚を切離し、腹腔動脈からの動脈系〜門脈、肝十二指腸靭帯とひと続きとなった重要な血管系を完全に遊離する。

 


肝下部下大静脈の切離。肝下部下大静脈を指などで鈍的にエンサークルしたのち、左右腎静脈起始部を確認してから肝下部下大静脈を切離する。

 


肝上部下大静脈から静脈内に左手中指をいれて、確実に下大静脈を確保した上でそのまま左手で肝臓を挙上し、横隔膜を切離、右副腎は副腎中央で離断し肝臓を摘出する。

 


肝臓を摘出後、腹部Aoに固定していたカニューレを切除し、肝臓とともにバックベンチへ。ベンチで門脈にカニュレーションし500mlほど還流液で還流する。

 

目標時間は肝腎のみの摘出で1時間