米国臨床留学日記: 腹部移植外科

2018年から米国中西部に臨床留学中。留学日記を中心に、関心のある医療トピック(移植外科、癌、肥満外科、予防医学) 趣味の筋トレ、ダイエット、書評、 中心に情報発信していくブログです。

フェローの就活: 信用貯金とコネと運

(1)就活を終えた感想

フェローシップと就活を終え、就活にあたって何が大切かと聞かれたら…

①信用の貯金を貯める

②コネクションを作る

③運が向いてくるのを待つ

ことかなと。

(2)フェローの就活

2018年8月から米国のインディアナ大学で移植外科のことはフェローシップをはじめ、2020年8月に正規の2年間のフェローシップを修了しました。

フェロー終了後も米国にスタッフ外科医として残るため、ポジション探しの就活をフェロー1年目の1月から始めていました。しかし、移植外科医の就活市場はほぼ飽和状態で2年目が終わってもポジションを見つけられなかった為、インディアナ大学のご厚意で3年目のシニアフェローとして雇用して頂きました。(2020-2021)

その間も就活を続けておりましたが、やはり状況は厳しく、3年間で応募できるほぼ全て、200以上のポジションに応募したものの面接に至ったのは4件のみでした。

(3)TeamWADAのご縁

転機は3年目も終盤に差し掛かった2021年1月に訪れました。友人に紹介して頂き、TeamWADA代表の北原先生が放送されているYoutubeチャンネル「留学医師Live」


www.youtube.com

に出演させて頂く機会に恵まれました。放送ではフェローの就活の現状と、“率直に、策は尽くしているが困っている”ことをお話ししました。すると1週間後、この放送を観てくださった心臓外科アテンディングの先生(T先生)から個人的に連絡を頂きました。T先生からはフェローから入った外国人外科医が米国で職を得るには“強いコネクションが必須”であることを教えて頂き、更に現在移植外科医を探している大学に以前スタッフとして勤務されていた先生を紹介して頂きました。

紹介して頂いた先生にこちらから連絡してみると、現地の状況や移植外科の職がどうやって決まっているか、コネクションの大切さ、就活する上で大切なことを非常に丁寧に教えて頂きました。

最終的に、紹介して頂いた大学から面接のオファーを頂き(!)、二度の面接を経て、スタッフとして勤務する契約を結ぶことができました。

(4)就活後日談

就活の後、今回採用して頂いた部長に人を採用する際の苦労を伺いました。今回、3つの空きポジションに100以上の応募があったこと。応募者の中には有名プログラムを卒業した米国人フェローや既に移植外科スタッフとして外国で働いている外科医からの応募もあったこと。その中から人を選考するにあたって一番大切なのは“自分がよく知っている人からの強い推薦”であること、を教えて頂きました。

私が運良くスタッフとして採用して頂けたのは、私を採用した部長が“よく知っている人物”から強い推薦を頂けたこと、に尽きます。

レジデント、フェロー、スタッフ、どの採用にも一つのポジションに対して数十、数百の応募があります。しかもどの応募者も“書類上は”手術もできて論文も書ける外科医であることをアピールしてきます。その中で、本当に手術を任せられる人間か否かを判断する材料として数枚の書類と数回の面接では他の応募者と差をつけることは困難です。そこで差別化する為に、人を探している施設の部長に自分の上司から直接推薦の電話をかけてもらったり、学会上で直接話しかけてアピールしたり、という“もう一押し”が非常に重要になります。

実際に、“有名プログラム”と言われる施設の部長は自分のフェローがいかにskillful でreliable なフェローかどうかを伝える電話をかけまくります。自分のプログラムのフェローが職を得ることができないと、そのプログラムの評価(評判)に関わるからです。

では、部長なら自分のプログラムの卒業生を誰でも推薦するかというと、そうとは限りません。人を推薦するということは“自分の信用を懸けてコイツは信頼できる奴だ”と推薦することです。話が違えば、推薦者の信用に関わります。そのため“自分が信用する”フェローでなければ強い推薦を与えることは、(自分の信用を賭けているため)難しいのです。特に外国人で言葉の壁がある場合、推薦に足る信用を得るにはより長い時間が必要になるかもしれません。

米国人がやりたがらないことをやったり、複雑な症例の過去の手術所見、画像所見を把握して手術のアシストをしたり、もしくは研究・論文執筆でその科の実績に貢献したり… 強い推薦に足る信用を得るには、貯金のようにフェロー開始からコツコツ小さな下積みを重ねるしかありません。信用貯金を貯めていき、“知り合いの所で人を探しているんだけど… 今度自分の施設に空きができるんだけど…”という機会を待ちます。

ただ待っていても、なかなかチャンスは来ません。幸いにも、今は行動に移せばすぐに人と繋がれる技術があります。SNS(Twitter、Linkedin)で他大学のアテンディングと繋がったり、学会発表や質疑応答を通じて自分の存在をアピールしたり、もしくは今回の私のようにTeamWADAチャンネルを通じてご縁を頂いたり。人の繋がり、人の縁を大切に、コネクションを作っていく努力も重要かと思います。

信用貯金を重ね、コネクション作りの努力をしても、タイミングによっては良いポジションが見つからないこともあります。結局最後に実感したのも「一番大切なものは“運” 」でした。ただ、ポジションの空きができた時に、信用貯金とコネクションがなければ、“ポジションが空いた”=“チャンスがきた”ことすら実感できません。“人事を尽くして天命を待つ”とは使い古された言葉ですが、後世に残る言葉にはやはり真実が含まれているものだと実感します。

 

もし似た立場で困っている方がいらっしゃったら、TeamWADAの北原代表に連絡をしてみてはいかがでしょうか。2021年にはYoutubeから天命が下ることもある…かもしれません。