移植外科医の米国臨床留学日記

2018年から米国中西部に臨床留学中。留学日記を中心に、関心のある医療トピック(移植外科、癌、肥満外科、予防医学) 趣味の筋トレ、ダイエット、書評、 中心に情報発信していくブログです。

脳死肝移植手術記録 Put-in(下大静脈-門脈吻合)

今日は肝臓をPut–Inする際の手順についてまとめてみます。

 

 ドナーの肝臓をレシピエントの体内に入れ、下大静脈、門脈を吻合して肝臓への血流を再開させます。この間の時間は温疎血時間になり、組織障害が進んでReperfusion syndrome, Primary non-function, ischemic cholangiopathyなどトラブルの原因となるので、温疎血時間を最小限にするよう配慮して手技を行います。手順を最大限マニュアル化して決まった手順で行うことで各工程にかかる時間を短くするよう工夫しています。その甲斐あってか、当施設では温疎血時間はほぼ20分以内で済んでいます。

 

 肝移植の手術時間自体もレシピエントの開腹からNative Hepatectomy完了まで1時間〜1時間半、それから各脈管の吻合が終わるまでに2時間30分〜3時間、止血、閉創までが3〜4時間で、腹腔内の癒着が少ない初回手術であればほぼ3〜4時間で肝移植手術が終了してしまいます。もちろん、単純に手術の速さを競っているわけではなく、術後出血で再開腹が多かったりしたら意味がないので、よく止血を確認してこの時間です。

 

さて、肝心の手技のまとめに入ります。

 

静脈の準備

 レシピエント肝臓を摘出する際に右肝静脈をStraight Clampで、左-中肝静脈をSatinsky Clampでクランプしておきます。Put-inする前にGraftの下大静脈径とRecipientの左-中肝静脈の血管径を比較し、Graftの下大静脈径に応じて、右-中-左肝静脈と吻合するか、右肝静脈を閉鎖して中-左肝静脈と吻合するのかを決めます。下大静脈径以外にも、Graft肝臓がレシピエントに比して大きい場合に、肝門部の吻合部を確保するため、より高位に静脈吻合をおくために中-左肝静脈吻合を選択することもあります。

 吻合する静脈を決めたら、それぞれクランプしているStraight Clamp、Satinskyと垂直になるように静脈壁をStraight Spoonで把持していきます。これは右肝静脈と中−左肝静脈をSatinskyで一括にクランプするための準備です。右肝静脈はSatinsky→Straight Spoonの手順を2回繰り返し、クランプの方向を揃えます。(右肝静脈は最初、縦方向にクランプされているのに対し、中-左肝静脈は横方向にクランプされます。これの方向を揃えるための手技です。)方向を揃え、Satinskyで一括にクランプする際は、下大静脈を部分的にクランプすることになるので、麻酔科の先生に一声かけ、血圧の大きな変動が無いことを確認します。血圧の変動がないことを確認したら、右肝静脈と中肝静脈の間を切開して二つの静脈を一つに繋げます。下大静脈前壁と横隔膜に3−0絹糸でStay sutureをおき、緩く結紮しておきます。(×3、中-左のみの場合は×2。後壁吻合中に前壁を展開しておくため)。下大静脈の左右両端に4−0ProleneでStay Sutureをおき、これを吻合に用います。ここでは持針器を左右両端で2個使います。それぞれ内糸を持針器で把持したまま頭側に置いておきます。外糸はShodで確保して術野外に展開しておきます。

 

Put–Inと静脈吻合

 

 Graftを術野に移動させ、Graft下大静脈の左右両端にレシピエント下大静脈の左右両端にかけていた針糸をかけ、パラシュート法でGraftをPut-Inします。左端(助手側)の4−0Proleneを結紮します。この時のポイントは結紮する際に糸の左右が同じ長さになるように揃えることです。(簡単そうで意外とコツが入ります。コツは第一結紮後に左右の長さを揃え、均等にした状態で第二結紮は両手結びでKnotを作ることです。これなら誰でも簡単に左右を均等にできます。)左端を結紮したら一方はshodで把持しStayとします。術者はもう一方の糸下大静脈後壁を連続縫合します。この際、確実に静脈の内膜同士を接着させるため、Graft側の静脈後壁は垂直マットレスになるように運針します。助手は左手に鑷子を持ってGraft側前壁を把持し、後壁が術者に見えるように前壁を展開します。助手の右手は運針する糸をフォローします。後壁右端まで連続縫合したら、糸を外糸にし、モスキートでクランプしておきます。

 

 前壁の縫合に移ります。前壁も左端から右端へと外翻連続縫合していきます。助手は右手で運針する糸のフォローをしつつ、左手に吸引管を持って適宜還流液や血液のたまりを吸引し、吻合部周囲をDryに保ちます。右端まで連続縫合した後、後壁糸と前壁糸を結紮→右端のStay-Sutureを結紮し、吻合を終了します。この吻合の間、第二助手はGraftを両手で抑えて吻合部静脈壁の適度な緊張を保ちます。 

 

 吻合が終了したら、吻合の肝臓側をKlintmam鉗子でクランプ、IVCをクランプしているSatinsky鉗子を解除し、吻合部から漏れが無いか確認します。この時大きな漏れが確認できた場合は4−0Proleneで縫合閉鎖します。

 

 静脈の吻合が終わったら、Graftの肝下部下大静脈にPool-tip吸引管を挿入、門脈にカニュレーションして室温の5%アルブミン液500mlをGraftに還流します。肝臓内に残っている臓器保存液を洗い流しつつ、4℃で保存されていた肝臓を復温します。還流が終わったら肝下部下大静脈をリニアステープラーで閉鎖するか、もしくは血管長に余裕がある場合は結紮します。

 

門脈吻合

 門脈吻合の準備をします。

 

 門脈吻合には5−0Proleneを用いて、基本的には静脈吻合と同様の手順で行います。門脈壁は静脈壁に比べて薄く、助手のフォローのタイミングが悪いと門脈壁を裂いてしまうので細心の注意を払います。特に後壁を吻合する際はフォローする際に助手が強く引きすぎると、吻合部狭窄の原因となるため、糸がたるむ寸前の適切な緊張を保つことが大切です。前壁、後壁の運針を終え糸を結紮する前に、レシピエント側門脈を遮断している鉗子を外し門脈吻合部に血液を満たしておきます。前壁糸と後壁糸を結紮する際に、5-10mmほどのGrowth Factorをおきます。

 

ここまでがPut-Inまでの一連の流れです。

次回は胆管の吻合と、小児の吻合についてまとめてみたいと思います。