ZOZOTOWN の前澤友作社長のツイートが議論を呼びましたね。
例えば、自分の目の前でおばあちゃんが倒れたら反射的に助けると思う。周りの人にも、手伝ってとか、救急車呼んでとか、協力を求める。
— Yusaku Maezawa (MZ) 前澤友作 (@yousuck2020) 2019年1月13日
何もかもはできなくとも、目の前にできることがあるなら、行動する。それだけ。
おうちゃんを助けたいから、みんなRTで協力して。余裕がある人は募金も。
事実として日本では2010年の臓器移植法改正があり、15歳未満の小児からの臓器提供が可能になりましたが、実態として小児患者への臓器移植件数は増えていません。小児に限らず、成人に関しても、日本の臓器提供数は世界で稀にみる少なさです。
一体何故なのか?
これまで議論されてきた原因として、日本人の死生観、宗教観が臓器提供へのハードルを上げているという意見があります。そのため、日本で脳死下・循環停止下臓器移植を増やすことは困難であり、生体間移植や渡航移植(外国に渡り現地で移植登録した上でドナーの発生を待つ)がその代替案にならざるを得ないという意見です。今回問題になったように、生体間移植が不可能な小児の心臓移植などの場合、そもそも日本でドナーを待つことが現実的ではないため、生きるための選択肢として渡航移植を選ばざるを得ません。
渡航移植に関しては、既に色々な方がツイートやブログで言及されていますが、現地の移植待機リストにお金を払ってリストされることになります。WHOからも国を跨ぐ渡航移植は原則推奨されていません。2008年のイスタンブール宣言でも『移植が必要な患者の命は自国で救える努力をすること』としています。
では日本で臓器提供数を増やすにはどうすればいいのか?
実は同じアジアの身近な国で、法改正によって臓器提供数を劇的に増加させた国があります。お隣の韓国です。
韓国では1988年に初めて臓器提供が行われて以来、年々少しずつ臓器提供が増加し1999年の時点で162件の臓器提供がありました。(この時点では厳密な法整備がなく、施行されていました。)しかし、2000年に臓器移植法(the Organ Transplant Act)が制定されると、制度設計の失敗から臓器提供は激減し、2002年には36件まで減少してしまいます。その後に様々な改正をされますが決定的な効果がなく、2005年まで年100件前後の臓器提供数に止まっていました。これは2018年の日本の臓器提供数(97件)とほとんど変わりません。
しかし、2006年、2011年に施行された法改正によって、韓国の臓器提供数は段階的に増加することとなります。まず2006年から導入されたのは、臓器提供者家族への金銭的インセンティブの付与でした。これにより2005年に91件だった臓器提供数が、2006年には141件、2008年には256件、2010年には268件へと増加しました。それでも依然として韓国内の移植待機リストには移植を待つ患者が多数おり、社会的に臓器提供への関心が高まりを見せます。そんな中、2011年に次の4点が改正されました。
(1)IOPO(Independent Organ Procurement Organization)の設立
(2)脳死になり得る患者(ポテンシャルドナー)のIOPOへの全例報告制度の開始
(3)ドナーが発生した病院での臓器提供手術を可能に
(4)脳死を決定する委員会の人数を6人から4人に
この法改正以降、韓国の全ての病院で発生したポテンシャルドナーはIOPOが把握することになりました。具体的に以下の4点を満たした場合、ポテンシャルドナーとして報告義務が発生します。
⒈ 自発呼吸の消失
⒉ 治療不可能な脳疾患の存在
⒊ 5つ以上の脳幹反射の消失
⒋ 深昏睡を招く代謝疾患の除外
法改正の効果は劇的に現れます。2011年6月に改正法が施行されると、その年の臓器提供数は368件まで増加しました。2016年には、韓国内での臓器提供件数は573件にのぼります。
先日の韓国の移植件数の増加。対して、日本は1998年の83件から、2018年の97件。20年間横ばいが続いています。失われた20年を取り返すにはどうすべきか。
— お米の国の外科医 (@HaKoSeMi) 2019年1月17日
引用:To Achieve National Self-sufficiency: Recent Progresses in Deceased Donation in Korea Transplantation99(4):765-770, April 2015. pic.twitter.com/T6EL6DxviL
興味深いことに、2011年以降、脳死臓器提供数が増えるとともに、生体間移植の件数も韓国では増加しています。移植医療への関心の高まりが招いたのか、韓国内での移植ニーズが増えたのか、2012年時点で韓国内での生体腎移植数は1015件、生体肝移植数は897件と年々増加しています。
ここにあげた政策、例えば、ドナー家族への金銭的インセンティブに関しては、韓国内でもその効果に議論があり、金銭的インセンティブを廃止する方向に議論が進んでいるようです。
韓国のケースはあくまで一例に過ぎませんが、同じアジア圏で過去10年間にこれだけ臓器提供件数を劇的に増やしている国があるということを認識し、その事例から日本に導入可能な政策を検討することは有益だと思います。少なくとも、死生観や宗教観といった曖昧な原因に依拠し、現状を改善するモチベーションを失ってしまうことは避けなれば。
Reference
⒈ To Achieve National Self-sufficiency: Recent Progress in Deceased Donation in Korea Transplantation99(4):765-770, April 2015
⒉ 日本臓器移植ネットワークanalyzePDF2017.pdf
⒊ Joo HN. The organ transplantation act and recent trends in Korea. Asia Pac J Pub Health 2013; 25: 209